TSUTAYAモバイルに考えるMVNO事業戦略

公開日: : 最終更新日:2014/12/12 MVNO , , ,

年末に入り、日本郵政やTSUTAYA等、多店舗を展開する企業のMVNO参入が相次いで報道されています。

日本郵政は全国約24,000店舗、TSUTAYAは同1,400店舗の販売チャネルを抱えています。
現在、ドコモショップの数が約2,400店舗、2014年3月期の新規契約数が約200万回線(注)ですから、超単純に計算すると、日本郵政は約10倍の販売チャネル数を保有しているので年間2,000万回線、TUTAYAは約6掛けで年間120万回線の獲得が見込めることになります。

(注)NTTドコモ年度事業データより推計
(純増:Xi,FOMA純増 約150万回線、解約:約50万回線【稼働回線数63,000万回線×解約率0.87%】)

ただ、そもそも現在、市場のパイを取り合っている大手キャリアの合計でも年間の新規契約数は数百万回線ですし、その他要因も踏まえると1MVNO事業者で年間数百万なんていう新規契約数はおそらく困難でしょう。
でも、各社数年後で100万稼働回線程度は目標に据えているかも知れませんね。
ここではTSUTAYAのMVNOについて、報道されている各ニュースの情報から、TSUTAYAの戦略について少し考えてみたいと思います。

来秋発売端末の想定ターゲットは若者か?

SIMカードのみ提供する格安型MVNOが多い中、TSUTAYAはオリジナル端末を開発する模様です。
現時点では商品企画中とのことですが、TSUTAYAの若いスタッフにヒアリングを重ね、彼らが欲しがるような端末を製作していく方向のようですから、初期ターゲットは若者を想定していることが考えられます。
いずれにせよ、2015年の秋発売開始予定ですから、逆算すると遅くとも3月頃までには完全に仕様が固まるようなイメージですね。

ただ、オリジナル端末の個性化は難しい

こちらの記事でも少し触れましたが、端末のオープン化(AndroidOS)と部品の完全モジュール化によって携帯端末の製造コストは昔と比べ、大きく下がっています。
つまり、オリジナル端末が作りやすい環境になり、MVNO事業者は昔では高いハードルであった端末の開発・製造・販売も選択肢に入れて戦略を検討できるようになってきているということです。

一方、この「オリジナル端末を開発・販売する」を選択した場合、当然ながら携帯端末(スマホ)の「オリジナル性」を考えていく必要があります。

この「オリジナル性」を機能、性能、デザインの3軸で考えてみたいと思います。

先ず機能ですが、TSUTAYAの場合、TポイントやTマネーなどのアプリがデフォルトで設定されている位は普通に考えられますし、記者会見でもこれら関連サービスとの連携を強化する旨、発表されていました。ただ、アプリ自体はTSUTAYAが広く顧客に使ってもらいたいものですから、当然非MVNOユーザーへ提供している既存アプリとの差別化が難しいものになると思われます。
また、ハード面での機能ですが、昔のガラケーと違い、スマホでは機能での差別化は難しくなってきています。
ですから機能面での差別化はあまり考えられないと思います。

次に性能です。カメラを高/低解像度にするとか、画面解像度が高い/低いとか、処理スピードを早く/遅くするとか、メモリ容量をどうするか、などの話です。
基本的にこの部分は端末コストの上下に大きく関わる部分ですが、若者というターゲットをひとくくりにして考えることはできない部分かと思います。

最後にデザインですが、デザインは購入動機のなかで非常に大きなウェイトを占めます。(特に女性の場合)
まさか、TSUTAYAのロゴがドカンと入るとか、そういうことはないと思うのですが、ガラケーと比べるとデザインの選択肢が少ないスマホで、どのようなオリジナル端末を開発してくるのか、見物だと思っています。

個人的には、値ごろ感のあるカジュアルな端末と、ややスペックの高い端末程度に妥結するのでは?と思ってます。
ハード面で個性を立たせれば立たせるほど、ターゲットは絞られてくるわけですが、当初若者をターゲットにするにせよ、若者の好みも様々です。
TSUTAYA自身、自らの顧客に多店舗チャネルを活用し、広くリーチして回線数を増加させていきたいでしょうから、端末自体に過度なオリジナル性は求めず、むしろ、「端末も一緒に買うこともできるよ。楽だよ。よければどう?」といったノリで考えられているのではと考えます。

MVNO事業は費用対効果の高い売上上積み事業となる

結局のところ、MVNO事業者にとって、携帯電話事業の本質的な価値は、「継続収入」と、「顧客ロックオン」に集約されると僕は思っています。
前者でいうと、一度販売してしまいさえすれば、長期間に渡り継続的に売上が立つわけですから、単なる「モノ売り」を行っている企業からすると魅力的に映ります。
しかもそれが、既存の経営資源である販売チャネルを利用でき、顧客との契約手続きはあるにしても、一度契約しさえすれば手離れが良く手間がかからない、となると多店舗展開している企業にとっては「やるべき」という意思決定が早期に決まることは容易に想像できます。
量販店系の格安MVNO事業者がこぞって参入しているのは、このような理由が大きいと考えます。

次に、後者の「顧客ロックオン」ですが、単に多店舗を保有しているのみならず、既存事業において、有効な会員組織を保有している場合には特に有効です。TSUTAYAがこれにあたります。
どういうことかというと、先ず、携帯電話事業を行うということは、必ず毎月顧客に利用料を請求できるということを意味します。どの商売もそうですが、いかにリピート率やリピート頻度を上げていくかということは、マーケティング上の重要論点です。そして、携帯電話事業では、それが容易(自動的)に担保されます。
加えて、毎月顧客に利用料を請求できるコンテンツがあるということは、既存サービスとのワンビリング(合算請求)が可能となるということを意味します。
例えばTSUTAYAのケースですと、TSUTAYAモバイルの加入者に関してはレンタル料を毎回レジで支払うことなく、毎月の携帯電話料金と合算で支払うことができる。しかもボリュームディスカウントが効く、Tポイントが多くつく、みたいなことが可能になります。
これによって顧客のさらなる囲い込みができますし、副次的な効果としてレジの業務処理も簡素化されます。

そのように考えると、一定の会員組織を保有していて、さらに既に販売チャネルを保有している企業にとって、MVNOは非常に魅力的に映る訳です。

さいごに

そもそも大手キャリアは、携帯電話事業収入がメイン収益ですが、多くのMVNO事業者の場合は、本業が他にあり、そこにMVNO事業を「単純に乗っけていく」「顧客をロックオンして相乗効果を狙う」というパターンが、今後より鮮明になってくると思いますし、特に後者の論点に関係するMVNOが次々に出現してくると思います。
さて、次のMVNO参入事業者はどこでしょうか。
本記事で記述してきた「多店舗」「会員組織」をキーワードに考えると、何となく想像できそうですね。

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